霧箱の原理

宇宙線や素粒子の飛跡をとらえて研究するための道具は、さまざまなものが考えられ実用化されてきています。霧箱はその中でも長い歴史を持つ測定器です。

ほとんどの物質は、気体、液体、固体とその有り方(相)を変化させます。例えば水では、大気圧下だと、0度で凍って固体になり、100度で沸騰して気体になります。一方、蒸発と液化は水面ではいつも起こっており、水分子が空気中へ蒸発する過程が起こるのと同時に、蒸発した水分子が液体に戻る過程が進行しています。

密閉した容器中では、この蒸発と液化の過程が平衡状態になっています。このとき、水面の上の空気中に含まれる水蒸気の量を飽和水蒸気量といいます。(飽和水蒸気量は温度に依存していて、温度が高いほど多くなります。)

何らかの原因でこの飽和水蒸気量より多い水蒸気が存在する状態が起こることがあり、これを過飽和状態と呼びます。過飽和状態はきっかけがあると、本来の飽和状態に戻りますが、その際に余分の水蒸気が液化される必要があります。この液化のきっかけは、水蒸気中にになるものがあると起こりやすく、このような核になるものを凝結核と呼んでいます。凝結核に凝結した水滴が目に見える大きさまで成長すると、霧滴、あるいは雨粒と呼ばれるものになります。

エタノール蒸気が過飽和になった状態を利用し、放射線が空気を電離して作ったイオンを凝結核として利用することによって、放射線が通った後を飛行機雲として目で見えるようにするのが霧箱です。

過飽和状態を作り出すのに静的にやるやり方と、動的にやるやり方があります。世界で最初に霧箱を発明したウイルソン(イギリス人)は動的方法を用いました。この動的霧箱はウイルソン霧箱とよばれていて、ピストンやゴム膜などを瞬間的に動作させて、容器内を減圧します。気体の断熱膨張によって温度が低下し、瞬時に過飽和状態を実現します。

(放射線が霧箱内に入るのと、断熱膨張のタイミングが同期しないと飛跡ができません)

今回使用する霧箱は気体の拡散を利用して静的に過飽和状態を作り出しています。プラスチックの飼育容器の中では、上面が室温、下面がドライアイスでー50℃以下に冷却されていますから、原理的に気体の対流は起こりません。上面近くで蒸発したエタノールは、拡散によってのみ、下へ移動していきます。下がるにつれて冷却され、いずれかの場所で過飽和状態が実現されるということになります。この方式の霧箱を拡散霧箱とよびます。

霧箱で飛跡の見える場所が比較的、下面に近いところに出来るのはこの理由です。

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