名古屋大学がOPERAの為に開発した技術 – SUTS

超高速自動飛跡読み取り装置 S-UTS

原子核乾板は、約200ミクロンのプラスチックの板の両面に、荷電粒子の飛跡を記録する 写真乳剤層を塗った構造をしています。粒子の飛跡はこの40ミクロンの写真乳剤層の中に立体的に記録されます。この3次元的な情報は、顕微鏡下でピントをず らしながら、連続して断層映像を取得することで読み取ります。

原子核乾板が開発された当初、飛跡を読み取る作業は手作業と肉眼で行われていましたが、この作業には 膨大な時間を要するため、原子核乾板は非常に優 れた空間分解能という長所を持ちながらも素粒子研究の現場から消えていきました。しかし当研究室は、顕微鏡、CCDカメラ、並列コンピュータを組み合わせ た乾板自動飛跡読み取り装置を開発しました。それにより飛跡読み取りの精度、速度は飛躍的に向上し、原子核乾板は素粒子物理学実験の第一線によみがえったのです。

Film Track in Emulsion
左:フィルムの断面の拡大図。白…プラスチックベース(200ミクロン厚)。青…原子核感材層(40ミクロン厚)。
右:顕微鏡の焦点をずらしながら粒子の飛跡の立体構造を見る。写真は白黒反転させてある。

超高速読取装置開発の経緯

1998 年に開発された高速飛跡読取装置、Ultra Track Selector(UTS)は1平方センチ毎時という画期的な速度を達成し、世界初のタウニュートリノ検出を狙ったDONUT実験を成功に導きました。し かし、OPERAでは巨大な検出器の中から目的とするニュートリノ反応からの飛跡をとらえるために最低でも20平方センチ毎時という桁外れな速度の読取装 置が必要となりました。

高速化の鍵-ステージ、レンズ駆動

UTSのスキャン速度を制限していたのは、顕微鏡ステージの振動で した。UTSでは、ある視野の断層映像を取り込んだ後隣の視野へ移動する際、顕微鏡ステージの振動が収まるまでの間、撮像を待機する必要があったのです。 ここでそしてさらなる高速化のために、いわばデジカメの手ブレ補正にあたる機能を搭載することで「ステージを等速度で動かしながら断層映像を取り込む」こ とにしました。

高精度で顕微鏡ステージ等速駆動し、それに完全にシンクロしてレンズが往復運動することで、水平方向の動きを相殺し、ステー ジが動いていてもある一箇所の断層映像を撮像できるようにするのです。この時、位置の誤差は0.3ミクロン以内である必要があります。これを実現するため に名古屋大学物理金工室、装置開発室と協力してピエゾアクチュエーターによる板バネ をリニアガイドとしたYZ駆動ユニットを開発しました。またピエゾアクチュエーターで駆動するレンズは軽量でなければならずとことんまで軽量化がはかられ ました。

 

高速化の鍵-超高速カメラ

撮像には顕微鏡映像を超高速カメラを用いて取り込みます。このような超高速カメラは通常は自動車の衝突試験等の用途に用いられる物で、毎秒3000枚の画像取り込みが可能です。

CCD1 CCD2
超高速CCDカメラ。
150ミクロンx120ミクロンの視野の顕微鏡映像を512×504ピクセルの解像度で読み取る。

高速化の鍵-画像処理

超 高速カメラから読み出されるデータは毎秒1.3GB(CD約2枚分)に上り、このようなデータをPCのバスで処理することは到底不可能です。ここで画像処 理のための専用ハードウェア(Digital Filter,Pixel Packer)を開発しました。フロントエンドの処理として最も困難な部分がここです。

hardware

 

あとFPGAの話

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