高感度霧箱で宇宙線、自然放射線を観察する

基本粒子研究室客員研究員  林 熙崇

2015年3月更新

宇宙線やβ線は霧箱内で飛跡の元となるイオンの発生数が少なく、α線のように簡単には見えません。すべての放射線を観察できるようにしたのが林式高感度霧箱です。

林式高感度霧箱を作ろう

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[1]林式高感度霧箱を作る

(1)  霧箱本体の製作

①      本体の外枠を作る

(a). 線の位置で折り曲げる

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(b). 折り曲げてガムテープで仮止めする

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(c). 縦縞のダンプラを横縞ダンプラの終わったところから巻きつけていく

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(d). ぐるりと一周してガムテープで上部を固定してから、ホチキスでダンプラ2枚を固定する(ガムテープを使わなかった方が底)。

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②      霧箱本体の底を作る

(a). 底面を上にしてその上にベルベット布を(はみ出しが均等になる様に)かぶせ、1本目のゴムバンドでまず固定する。釣りバンド(b2)でベルベット布に張力を与えておき、端を折り曲げて2本目のゴムバンドで固定する。

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(b1). ベルベットに張力を与える釣りバンドをクリップと輪ゴムでつくる

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(b2). 輪ゴムを通したダブルクリップでベルベット布を挟む

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(c). ストレッチフイルムをベルベット布の上からかぶせて霧箱本体の底をつくる。4隅の出っ張ったストレッチフイルムは側面にぴったりとなる様に折り曲げてゴムバンド2本で上から固定する

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③ 枠の上部端面に黒ガムテープを全面に張る。(ラップフイルムを霧箱本体上部に張ったときにラップが上面に密着するようにする。)

(2)アルコール蒸発用の側面紙を作る

アルコール蒸発用の黒ラシャ紙 (黒画用紙で遮光紙を兼ねる) を2枚霧箱内面に沿わして入れる。(具体的入れ方は後の「霧箱を動作させる」を参照)

底面の液体アルコールは霧箱の動作中、紙繊維中を毛細管現象で常に上部に運ばれる。そして上部から蒸発し、霧箱内に拡散する。

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(3) 断熱箱を作る

(a). 側面と底の発泡スチロール板をガムテープで仮止めする
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(b). 箱を完成させる

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[2]高感度霧箱を動作させる

(1)全体組立て模式図

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(2)組み立て手順

①    発泡スチロール箱にドライアイスを入れ、その上にアルミ板を置く

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②霧箱をアルミ板の上に置き、霧箱内にネンアル(燃料用アルコール)を入れる。
液量は底面のベルベット布から約3~5mm程度の深さのプールになる量である。(約350ml入れる)

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③黒紙2枚を用意し、ネンアル(燃料用アルコール)中に一枚ずつ入れて、万遍なく
ネンアルを含ませる。内側に張り付けるように一枚ずつセットする。(下端が底から浮いていないことを確認する)

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注、 ネンアル液が紙に吸収されて少なくなり、底のベルベット布が液面上に一部露出するようなら、ベルベット布が沈むまで追加のネンアルを注ぐ.

④ ラップで蓋をし、しわがよらないように引っ張ってぴんとさせ、ゴムバンドで固定する。

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3LED懐中電灯(ダイソー)を用いた霧箱用ライトの作り方
ダイソーの3LED懐中電灯を8個用いた(最低4個で観察できる)簡単照明装置を作る

(a) 3LED懐中電灯に電池を入れてから懐中電灯の前部の側面の光漏れを防ぐテープを巻く

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(b) 3LED懐中電灯2個をゴムバンドで止める
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(c) 固定板に2個組3LED懐中電灯を輪ゴムで固定する
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(d) 固定板に4組の3LED懐中電灯を輪ゴムで固定する

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⑤ 冷却開始から10分ほどすると飛跡ができてくる。
霧箱の前部上方から3LED懐中電灯群で内部を照明して飛跡を観察する。

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* 注意1. 霧箱にはネンアル(燃料用アルコール)を使用しています。引火の危険性があることを頭に入れて実験しましよう。

* 注意2. 霧箱の上面を覆うラップの材質(表面の添加物が影響しているのではないか?) は霧箱の性能に大きく影響を与えます。
霧箱上面のラップとして良かったのは写真のようなポリメチルペンテン、ポリエチレン等のラップやストレッチフイルムでした。
(塩化ビニール素材のラップが最も悪かった)

[3]自然放射線を観察する

宇宙線や自然界に存在する放射線の作る飛行機雲様の飛跡が見えるまで待ちましょう。飛行機雲様の飛跡が安定して見え始めたら、

(1) 飛跡の観察をしましょう。どんな形のものがあるでしょうか、また飛跡の濃さはどうでしょうか?

(2) 飛跡の形、長さ、飛来方向、1分間に出来る本数などを計測してみるのも面白いですね。

(3) どうして放射線源がないのに、たくさんの飛跡が見えるのでしょうか。その線源はいったいどこにあるのでしょうか、不思議ですね。

[4]α線、β線、γ線の観察

放射性元素から放出される放射線はα線、β線、γ線の3種類です。
* α線は空気中に漂っていたラドンガスが霧箱のラップをかぶせるときに霧箱内部に取り込まれて、霧箱内部で崩壊して飛跡をつくります。
* β線は建物をつくっているコンクリートや壁土に微量に含まれているウランやトリウムなどの放射性元素から放出されたものが見えます。
* γ線は荷電粒子ではないので直接は見えませんが、γ線が(霧箱内の分子の)原子からはじき出した電子の飛跡(コンプトン散乱)を見ることが出来ます。

キャンプなどで使用する照明用ガスランタンのホヤとして使用されるマントルには、輝度を増すために、古いマントルには酸化トリウムを含むものがあります。このトリウムは半減期が非常に長い放射性物質です。
トリウム232は半減期が約141億年と、宇宙の年齢とほとんど変わらないくらいの寿命で崩壊してα線を出してラジウム228になります。そしてこのラジウムは半減期6.7年でβ線を出してアクチニウム228に、アクチニウム228は半減期6.13時間でβ崩壊してトリウム228に崩壊していきます。そしてこのトリウム228はα崩壊してラジウム224になり、さらにα崩壊して気体のラドン220になり、ラドンは半減期約56秒でポロニウム216になり、ポロニウムは0.145秒で鉛212に変わります。このような崩壊の系列がトリウム崩壊系列です。ウラン238も同様にどんどん崩壊して別の物質になっていきます。そして鉛の安定核で止まります。この崩壊の系列がウラン崩壊系列です。自然界では現在もこれらの崩壊は続いていて、できた放射性物質から放射された放射線が私達の周囲を飛び交っています。

[参考文献]
宇宙線 小田稔著 裳華房
原子物理学  シュポルスキー著、玉木英彦他訳 東京図書
理科年表

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