中性子トラッキング検出器

 我々は高速中性子の方向やエネルギーを精密に測定できる原子核乾板を使った中性子トラッキング検出器を開発しています。

検出原理

 中性子は電荷を持たないため、直接検出することはできませんが、高速中性子(数MeV~数10MeV)は原子核との散乱を用いて検出することができます。

 高速中性子が原子核の一つである陽子と反応するとき、ビリヤードの球が互いに衝突するように反応(弾性散乱)します。正面衝突すれば、運動量保存則からほぼすべての運動エネルギーを陽子に渡します。陽子は電荷を持っているため、はじき出された反跳陽子の飛跡(進路の跡)を検出することができ、この情報から中性子の飛跡を推定できます。反跳陽子の飛跡を統計処理することで、中性子のエネルギーや角度の再構成が可能です。

特徴

 高速中性子による反跳陽子の飛跡は固体中で数10~数100ミクロンと非常に短く、その検出は極めて困難です。原子核乾板は1ミクロンという非常に高い空間分解能をもっており、このように短い反跳陽子の飛跡の長さ、角度を十分な精度で測定することができます。

 原子核乾板には原理的に時間分解能がなく、リアルタイム性はないものの、電源が不要であり、適切な温度下であれば設置場所を選びません。また、測定のバックグラウンドとなるガンマ線との識別能力を向上させる改良が進められています。(大面積化も可能です。)

使用例

・核融合実験
 次世代のエネルギー源として期待され、現在その技術開発が行われている核融合発電炉では次のような核融合反応を利用します。
  D+D→3He+n(2.5MeV)
  D+T→4He+n(14MeV)
この反応により発生する中性子の空間分布や発生量、エネルギー分布を知ることで、核融合反応の情報を直接的に得ることができます。このとき、中性子が周囲の物質と相互作用することで、バックグラウンドとなるガンマ線が大量に発生します。原子核乾板の感度をコントロールすることで、このような大量のガンマ線環境下でも機能するような改良を行っており、核融合プラズマ計測で用いられる高速中性子検出器として有望視されています。

・暗黒物質探索実験
 暗黒物質探索実験では、暗黒物質と似た反応をする中性子がバックグラウンド(背景事象)となります。実験を行う地下環境で中性子測定を行うことは、実験場に存在するバックグラウンドを理解するために不可欠です。しかし、地下環境の中性子フラックスは極めて低く、精密測定のためには大質量の検出器を設置する必要があります。原子核乾板は大量生産しそれを解析することが比較的容易な検出器であり、地下中性子測定に向いています。

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