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夏目光教

名古屋大学 大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 博士課程3年

平成16年度〜18年度 COE研究員

平成17年度〜18年度 科研費若手B「方向感度を持った暗黒物質検出器ナノイメージングトラッカーの実用化」



NITによる暗黒物質WIMPsの探索

方向感度を持ったWIMP検出器NIT !!

宇宙の重量の大半を占める暗黒物質の正体は何か? 現在の素粒子標準模型を越えた超対称性理論は Weakly Interacting Massive Particle (WIMP) という未発見粒子の存在を予言している。 WIMPの質量は10GeV〜TeVとされ、非常に「弱く」ではあるが原子核と相互作用して数100km/sの速度で原子核を跳ね飛ばす。 この反跳原子核を検出することでWIMPを観測可能である。

WIMPの運動が等方的なMaxwell速度分布に従っているとすると、 太陽系はWIMPが満ちている銀河を230km/secで回転運動しているため、地球はWIMPの風を受けている。 反跳方向がわかれば、検出器のノイズや中性子・γ線のバックグラウンドと信号を区別し、反跳信号が銀河に起因するものか解析して判別できる。 しかしながら、反跳原子核の速度は非常に遅く検出器中をほとんど走らないので( <<1μm:固体中)、その方向を測定することは非常に困難である。 今日まで方向感度を持った検出器がなく、WIMP探索は信号量の季節変化(10%程度)に頼らざるを得ない状況である。

高い信頼性でWIMP探索を遂行するため、我々は方向感度を持った検出器 Nano Imaging Tracker (NIT) を富士写真フィルムと共同で開発した。 NITはWIMPに跳ね飛ばされた原子核の飛跡をナノメートルの空間分解能で識別する超微粒子写真乳剤である。 NIT検出器を赤道儀により地球の自転・公転をキャンセルするように回転させれば、 WIMPに跳ね飛ばされた原子核のうち、反跳速度の大きいつまり観測の容易な原子核の飛跡は NITの中でWIMP風の方向を指し示すはずである。


40nm AgBr NIT

NIT表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真とNIT薄膜の透過型電子顕微鏡(TEM)写真

SEM AgBr SEM AgBr TEM TEM


粒子の飛跡をnmスケールで見る

NITに記録されたα線飛跡のTEM写真

現像(還元)によって、平均直径40nmのAgBr結晶から、長さ約200nm・直径20nmのフィラメント状の銀が成長した。


NIT R&D

微粒子現像液によって短いフィラメントが得られた。α線飛跡のSEM写真による比較を示す。

標準現像 α線 標準現像 α線 微粒子現像 微粒子現像


WIMP反跳原子核を捕らえることができるか?

WIMPと検出器の原子核との相対速度は最大でも600km/s程度(銀河脱出速度)であり、正面衝突のときは原子核はその倍の1200km/sで跳ね飛ばされる。 WIMP反跳原子核は数100km/sと低速であるため、電子と衝突し(電子励起)エネルギーを失う electronic stopping よりも 原子核と衝突してエネルギーを失う nuclear stopping が強い、いわば中性の原子として固体中を走ると考えられる。 NITが荷電粒子に感度を持つことはα線で確認したが、この原子を飛跡として検出できるかは未知であった。

NITでWIMP反跳原子核を捕らえられることを実証するために、 イオン注入装置(名古屋大学先端技術共同研究センター内)を使って680km/s、1200km/sのKrをBr反跳の代わりにNITに照射した。 現像し、電子顕微鏡観察を行って、以下のようなSEM写真を得た。 NITを用いて低速原子の直接観測に初めて成功し、 WIMPに跳ね飛ばされたAgやBrの原子核の飛跡を検出でき、方向感度も持つことを示した。

Kr 680km/sec (200keV) 飛跡のSEM写真

Kr 1200km/s (600keV) 飛跡のSEM写真